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鏡の法則

2006
「鏡の法則」第4回目
そして、電話をかけようとしている自分が、不思議だった。
こんなきっかけでもなかったら、A子が父親と電話で話すということは、一生なかったかもしれない。
結婚して間もないころは、実家に電話をして父が電話に出たときは、すぐさま「私だけど、お母さんにかわって」と言っていた。
しかし今は、「私だけど」と言っただけで、父の「おーい、A子から電話だぞ」と母を呼ぶ声がする。
父も「A子から自分に用事があるはずない」ということわかっているのだ。
しかし、今日は電話で父と話すのだ。
「躊躇していたら、ますます電話をかけにくくなる」と思ったA子は、意を決してすぐに電話をかけた。
電話に出たのは、母だった。
A子「私だけど」
母 「あら、A子じゃない。元気にしてる?」
A子「うん、まあね。・・・ねえお母さん、お父さんいる?」
母 「えっ?お父さん?あなたお父さんに用なの?」
A子「う、うん。ちょっとね。」
母 「まあ、それは珍しいことね。ねえ、お父さんに何の用なの?」
A子「えっ?えーと、ちょっと変な話なんだけど説明するとややこしいから、お父さんにかわってくれる?」
母 「わかった、ちょっと待ってね。」
父が出てくるまでの数秒間、A子の緊張は極度に高まった。
ずっと父のことを嫌ってきた。
父に心を開くことを拒んできた。  その父に、感謝の言葉を伝え、あやまるのだ。
ふつうに考えて、できっこない。
しかし、息子のことで悩みぬいたA子にとって、その悩みが深刻であるがゆえに、ふつうだったらできそうにない行動を取っているのだった。
もしも、その悩みから解放される可能性があるなら、わらにもすがりたいし、どんなことでもする。
その思いが、A子を今回の行動に向かわせたのだ。
父 「な、なんだ? わしに用事か?」
A子は、自分では何を言っているかわからないくらいパニックしながら話し始めた。
A子「あっ、あのー、私、今まで言わなかったんだけど、言っといたほうがいいかなー と思って電話したんだけど、・・・えーと、お父さん、現場の仕事けっこう大変だったと思うのよ。
お父さんが頑張って働いてくれて、私も育ててもらったわけだし。
あのー、私が子どものころ、公園とかも連れて行ってくれたじゃない。
なんていうか、『ありがたい』っていうか、感謝みたいなこと言ったことないと思うのよ。
それで、一度ちゃんと言っておきたいなと思って、・・・。
それから私、心の中で、けっこうお父さんに反発してたし、それもあやまりたいなと思ったの。」
ちゃんと「ありがとう」とは言えなかったし、「ごめんなさい」とも言えなかった。
だけど、言うべきことは一応伝えた。 父の言葉を聞いたら、早く電話を切ろう。そう思った。
しかし、父から言葉が返ってこない。 『何か一言でも言ってくれないと、電話が切れないじゃない』そう思った時に、受話器から聞こえてきたのは、母の声だった。
母「A子!あなた、お父さんに何を言ったの?」
A子「えっ?」
母「お父さん、泣き崩れてるじゃないの!何かひどいこと言ったんでしょ!」
受話器から、父が嗚咽する声が聞こえてきた。
A子はショックで呆然とした。
生まれて以来、父が泣く声を一度も聞いたことはなかった。
父はそんな強い存在だった。
その父のむせび泣く声が聞こえてくる。
自分が形ばかりの感謝を伝えたことで、あの強かった父が嗚咽しているのだ。
父が泣く声を聞いていて、A子の目からも涙があふれてきた。
父は私のことをもっともっと愛したかったんだ。
親子らしい会話もたくさんしたかったに違いない。
だけど私はずっと、父の愛を拒否してきた。
父は寂しかったんだ。
仕事でどんなに辛いことがあっても耐えていた強い父が、今、泣き崩れている。
娘に愛が伝わらなかったことが、そんなに辛いことだったんだ。
A子の涙も嗚咽へと変わっていった。
しばらくして、また母の声。
母「A子!もう落ち着いた?説明してくれる?」
A子「お母さん、もう一度、お父さんにかわってくれる?」 父が電話に出る。
父「(涙声で)A子、すまなかった。わしは、いい父親じゃなかった。
お前にはいっぱいイヤな思いをさせた。うっ、うっ、うっ、(ふたたび嗚咽)」
A子「お父さん。ごめんなさい。私こそ悪い娘でごめんなさい。
そして、私を育ててくれてありがとう。うっ、うっ、うっ(ふたたび嗚咽)」
少し間をおいて、再び母の声。
母「何が起きたの?また、落ち着いたら説明してね。一旦、電話切るよ。」
A子は、電話を切ってからも、しばらく呆然としていた。
20年以上もの間、父を嫌ってきた。 ずっと父を許せなかった。
自分だけが被害者だと思っていた。
自分は父の一面だけにとらわれて、別の面に目を向けようとはしなかった。
父の愛、父の弱さ、父の不器用さ、・・・これらが見えていなかった。
父はどれだけ辛い思いをしてきたんだろう。
自分は父に、どれだけ辛い思いをさせてきたんだろう。
いろいろな思いが巡った。
「まずは、形から入ればOKです。気持ちは、ついてきますから。」と言ったB氏の言葉の意味が、ようやく分かりかけてきた。
「あと1時間くらいで、○○○(息子)が帰ってくるな」 そう思った時に、電話が鳴った。

出てみるとB氏であった。
B氏「どーも、Bです。今、40~50分くらい時間ができたので電話しました。
さっきは、次の予定が入ってたので、お話の途中で電話を切ったような気がしまして。」
A子「実は私、父に電話したんです。電話して本当によかったです。
ありがとうございました。Bさんのおかげです。」
A子は、父とどんな話をしたかを簡単に説明した。
B氏「そうでしたか。勇気を持って行動されて、よかったですね。」
A子「私にとって、息子がいじめられてることが最大の問題だと思っていましたが、
長年父を許していなかったことの方が、よほど大きな問題だったという気がします。
息子の問題のおかげで父と和解できたんだと思うと、息子の問題があってよかったのかな、という気すらします。」
B氏「息子さんについてのお悩みを、そこまで前向きに捉えることができるようになったんですね。
潜在意識の法則というのがありましてね、それを学ぶと次のようなことがわかるんです。
実は、人生で起こるどんな問題も、何か大切なことを気づかせてくれるために起こるんです。
つまり偶然起こるのではなくて、起こるべくして必然的に起こるんです。
ということは、自分に解決できない問題は決して起こらないのです。
起きる問題は、すべて自分が解決できるから起きるのであり、前向きで愛のある取り組みさえすれば、後で必ず『あの問題が起きてよかった。そのおかげで・・・』と言えるような恩恵をもたらすのです。」
A子「そうなんですね。ただ、息子の問題自体は何も解決していないので、それを思うと不安になります。」
B氏「息子さんのことは、まったく未解決なままだと思っておられるんですね。

もしかしたら、解決に向けて大きく前進されたのかもしれませんよ。
心の世界はつながっていますからね。
原因を解決すれば、結果は変わるしかないのです。」
A子「本当に息子の問題は解決するんでしょうか?」
B氏「それは、あなた次第だと思いますよ。さて、ここで少し整理してみましょうか。
あなたにとって、息子さんのことで一番辛いのは、息子さんが心を開いてくれないことでしたね。
親として、何もしてやれないことが情けなくて辛いとおっしゃいましたね。
その辛さをこれ以上味わいたくないと。」
A子「はい、そうです。いじめられてることを相談もしてくれない。
私は力になりたいのに、『ほっといて!』って拒否されてしまう。
無力感を感じます。
子どもの寂しさが分かるだけに、親として、何もしてやれないほど辛いことはありません。」
B氏「本当に辛いことでしょうね。
ところで、その辛さは、誰が味わっていた辛さなのか、もうお解かりですよね。」
A子「えっ?誰がって・・・(しばらく沈黙)」
その時、A子の脳裏に父の顔が浮かんだ。
そうか!この耐えがたい辛さは、長年父が味わい続けたであろう辛さだ。
娘が心を開いてくれない辛さ。
娘から拒否される辛さ。
親として何もしてやれない辛さ。  私の辛さといっしょだ。
この辛さを、父は20年以上も味わい続けたのか。
A子のほほを涙が伝った。
A子「わかりました。私は、私の父と同じ辛さを味わっていたんですね。

こんなに辛かったんですね。父が嗚咽したのも分かります。」
B氏「人生で起こる問題は、私たちに大事なことを気づかせるべく起こるんです。」
A子「あらためて父の辛さが解かりました。



息子のおかげで、解かることができたんだと思います。
息子が私に心を開いてくれなかったおかげで。」
B氏「息子さんもお父様もあなたも、心の底ではつながっています。
お父様に対するあなたのスタンスを、あなたに対して息子さんが演じてくれたのです。
そのおかげで、あなたは気づくことができた。」
A子「息子にも感謝したいです。
『大事なことに気づかせてくれて、ありがとう』って気持ちです。
今まで、『どうしてお母さんに話してくれないの?』って心の中で息子を責めていました。」
B氏「今なら、息子さんの気持ちも理解できますか?」
A子「そうか!
私が子どものころ、口うるさい父がイヤでした。いろいろ口出ししてきたりするのがイヤでした。
今考えてみれば、それも父の愛情からだったんでしょうが、当時は負担でしたね。今、息子も同じ思いなんだと思います。
私の押し付けがましい愛情が負担なんだと思います。」
B氏「あなたが子どものころ、本当はお父さんに、どんな親でいてほしかったんでしょうね?」
A子「私を信頼してほしかった。
『A子なら大丈夫!』って信頼してほしかったです。・・・(しばらく沈黙)。
私、息子を信頼していなかったと思います。
『私が手助けしないと、この子は問題を解決できない』と思っていました。
それで、あれこれ問いただしたり、説教したり、・・・。
もっと息子を信頼してあげたいです。」

B氏「あなたは、お父様の辛さも理解し、息子さんの辛さも理解されましたね。
では次に、ご主人とのことに移りましょう。
朝お電話をいただいた時に、『あなたの大切な息子さんが人から責められてしまう原因は、あなたが身近な誰かを責めてしまっていることです』とお話したのを覚えていますか?」
A子「はい、覚えています。主人を尊敬できないという話をしました。」
B氏「ではもう一度、ご主人に対してどんなふうに感じておられるか、話してもらえますか?」
A子「どうしても、主人に対して、『教養のない人』とか『思慮の浅い人』というふうに見てしまうんです。
息子のことにしても、私がこれだけ悩んでるのに、根拠なく楽観的なんです。
それで主人に対しては、グチこそはぶつけますが、ちゃんと相談したりすることはありません。
主人がアドバイスなどしてきても受け付けられないんです。」
ここまで話しながらA子は、自分の夫に対するスタンスが、父親に対して取ってきたスタンスに似ていることに気がついた。
A子「私が父に対して取ってきたスタンスと似てますね。」
B氏「そうなんです。女性の場合、父親に対してとってきたスタンスが、ご主人に対してのスタンスに投影されることが多いんです。
ところで、お聞きしていると、ご主人は息子さんのことを信頼されているようですね。」
A子「あっ、そうですね!そうか、主人のそういうところを見習うべきだったんですね。
息子は主人に対しては、けっこう本音を言っているみたいなんです。
息子は信頼されてると思うから、主人には心を開くんですね。
私は主人のよいところをまったく見ていませんでした。」
B氏「なるほど、そんなことを感じられたんですね。

さて、では宿題を差し上げます。やるかどうかは自分で決めてくださいね。
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